8月16日に哲学者木田元氏が亡くなられたと、新聞で読みました。
「ピアノを弾くニーチェ」という本を読んだことがあることを思い出しました。広島で原爆投下を目撃されたことも書かれています。
2008年8月25日(ニーチェの命日)に書かれたエッセイ「ピアノを弾くニーチェ」の中からの引用です。
1889年1月3日に、彼は旅先のイタリアのトリノの町で精神錯乱を起し、以後十年あまりを母と、次いで妹に看とられながら過ごして、19世紀最後の年、1900年の今日、ワイマールで永眠した。まだ55歳だった。
ニーチェは一方で強靭な思索を展開しながらも、他方では豊かな感性に恵まれ、自分で作曲をしたり、ピアノを弾いたりもできたそうだ。
発病後、母親とイエナで暮らしていたころのこととして、こんな話が伝えられている。母親が知人の家を訪ねようとすると、まるで子どものようにニーチェが後を追ってくるので、彼女は彼をピアノの前に坐らせ、いくつかの和音を弾いて聴かせる。すると彼は、何時間でもそれを即興で変奏しつづける。その音が聴こえるあいだ、母親は安心して知人を話ができたという。
この話を読むたびに私は、いつも胸のつまる思いがする。今日一日、この思想家に思いを馳せて過ごそうと思う。
「ピアノを弾くニーチェ」 木田元(2009 新書館)より